家族信託ってなに? #01 よくわかる家族信託

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 法律に関する事柄の解説はとかく難しい言葉が多くて読みづらく、理解するのが大変なことも多いと思います。このブログでは、できる限り平易な言葉遣い・誰にでも分かりやすい説明を心掛けて、皆様が必要としている情報をお届けしてまいります。ご興味いただけましたらブックマークに追加いただけると幸いです。

 今回は初回の投稿ということで、神宮外苑司法書士事務所の最も力を入れている予防法務のメイン分野、家族信託についてのお話です。

家族信託ってなに?

 最近、テレビや雑誌など各種メディアでも「家族信託」「民事信託」という言葉を耳にすることが増えてきました。当事務所のホームページをご覧いただいている皆さんのうち一定割合の方々も、家族信託に興味があってここまでお越しいただいたかも知れません。ここまでお越しいただいた皆さんであれば、家族信託について、少なくとも『認知症対策や財産管理に関する仕組み』というイメージは持っていらっしゃるかもしれません。

 でも「信託法」という専門的な法律に基づく仕組みであることや、比較的最近始まった制度であることから、なかなか理解の難しい仕組みでもあります。ご自身やご家族に家族信託を利用したい、あるいはご自身やご家族に家族信託は有用なのかきちんと理解したい、このようなご希望の方々に向けて、まずは家族信託の基本構造について解説いたします。

家族信託の基本構造

 家族信託を一文で表現すれば、

『財産の所有者が、その財産を信頼できる家族に託し、託された家族がその財産をある人のために管理運用する仕組み』

 ということになります。すでに分かりづらいですね。

 文章を分けて、ひとつずつ見ていきましょう。

『財産の所有者が』

 まずここで言う『財産』とは、経済的価値のあるものの総称です。

 現代日本の社会・法制度のなかで一般的に財産とされる主なものは、

  • 金銭(現金や預金など)
  • 土地と建物(不動産)
  • 有価証券
  • 貴金属や家財道具などの物品(いわゆる動産)
  • 会員権などの権利

 などです。

 「健康が私の財産です」などという時の財産は、ここで言う法律的な財産には含まれません。あくまでも経済的価値のあるもののことです。日本の法律では私有財産制が認められていますので、財産を持つ人にはその財産を自分のものとして所有する権利があります。この「財産を持っている人」が『所有者』です。

 所有者には、財産を自分の好きなように利用したり、処分したりできる権利があるわけです。

『その財産を信頼できる家族に託し』

 財産は所有者のものです。財産について管理・利用・処分などするすべての権限は所有者にあります。逆に言えば、他人の財産を管理・利用・処分する権限は無いわけです。これはたとえ家族であっても同じこと。

 身近な場面に例えてみましょう。

 妻の所有するポテトチップスを勝手に食べたら怒られます。私には他人(妻)の財産を利用(食べる)する権利はないわけです。ただ、妻には自分のポテトチップスを自由に処分する権利もありますから、妻が私に「これあなたにあげる」と言ってくれれば、ポテトチップスは私のものになります。私が所有者となりますから、私が食べても誰からも怒られません。息子にあげることだってできます。

 つまり、通常は財産についての権限は所有者のみが持っていると言えるわけです。

 でも、信託の世界においては、所有と権限の関係性を通常とは少し異なるかたちに変えていくことになります。『財産を信頼できる家族に託し、』という時の『託す』という部分が、通常の財産所有のかたちとは異なっている部分ということになります。託されていますので、財産の名義は託された人に移動します。外面的には託された人が所有者のように見える外観を備えることになります。でも、託された人は、託されているとは言うものの、純然たる自分の所有物ではない形で財産を預かっていますので、自分の自由にその財産を管理・利用・処分することはできません。どのように管理・利用・処分するかは、このあとの③の部分になります。

 ここまで『託す』とか『名義』とか、少し分かりづらい箇所がありますね。この辺りは次々回のブログで詳しく説明しますので、ひとまず先に進みます。

 また、この②の文章では『信頼できる』というところも重要です。所有者が自らの意思で信頼する相手を選んで、その人を信用するからこそ財産を託すという行為が信託です。文字通り『信じて託す』行為です。信託は所有者の主体性を大前提として成り立っている仕組みであるということをご理解いただけるかと思います。

『託された家族がその財産をある人のために管理運用する仕組み』

 ①と②は所有者が主語の文章でしたが、③は託された側の人が主語です。

 託された人が、純然たる自分のものではない財産を、外面的には自分のものとした上で管理・利用・処分するわけですが、この管理・利用・処分には目的があります。

 この財産の本来の所有者は、元々財産を所有していた人です。所有者は自分の想い通りに財産を管理・利用・処分できるのですから、財産を託す場合であっても、託した人(所有者)の想いの通りに託されることになります。託された人は、元の所有者の希望する通りに、託された財産を管理・利用・処分しなくてはなりません。他人から預かっている財産ですから、自分自身のために利用することはできません。

 ③では『ある人のために』と書きましたが、この『ある人』も当然所有者の意思に基づいて決める部分です。通常この『ある人』は元の所有者であることがほとんどです(理由は今後の回で詳しく説明します)。ですので『ある人』を『所有者自身』と読み替えていただいても構いません。託された人は、自分のためではなく、元の所有者のために財産の管理運用をするのです。

 『管理』とは財産に関する諸々の手続きを行うこと、『運用』とは財産の価値を維持し高めること、という程度にご理解いただければよいかと思います。

 では、具体的な事例を挙げて説明してみましょう。

事例

 以下のような事例が家族信託利用の典型例となっています。

  • 先祖代々の土地で、アパート『A荘』の賃貸経営をしているAさん(75歳)。これまで長い間、入居者との契約や収入の管理・リフォーム業者とのやり取りなど、全て自分ひとりで管理してきました。この賃貸経営から得られる収入で、妻 B子さんとふたり不自由なく暮らしています。
  • ただ、ここのところ高齢のせいもあり、物忘れが増えてきた気がします。銀行や役所などへ自分の足で出向くのも段々と体力的に厳しくなってきました。
  • 今はまだ元気に動けていますが、今後もし認知症や突然の病気などになってしまったら、今まで通りのアパート経営はできなくなってしまいます。夫婦の大切な生活資金が途絶えてしまう。そう思うと、とても心配になってきました。
  • もともと、いずれ自分が亡くなれば、このアパートは近くに住む長男 C太郎さんに相続させて引き継いでもらうつもりでいますが、この際なので今の時点でC太郎さんにアパートをあげてしまって、Aさん夫婦のために管理してもらおうかとも考えました。
  • ところが、確定申告をお願いしている税理士から「生前贈与には多額の贈与税がかかるので現時点でのC太郎さんへの贈与は難しい」との指摘を受けてしまいました。
  • それに加えて税理士の話では、そもそもC太郎さんにアパートをあげてしまったら、得られる収入はAさんのものではなくC太郎さんのものになってしまうとのこと。考えて見れば確かにその通りだと気付きました。
  • C太郎さんは両親のためにアパート経営を手伝うと言ってくれていますし、Aさん夫婦はC太郎さんをとても信頼してはいますが、入居者や銀行や税務署など、対外的な第三者からは、アパートも収入もAさんの財産とはみなされなくなってしまいます。
  • 良い解決策はないかと思っていたところ、近所に開業した司法書士から家族信託という新しい仕組みがあるという話を聞きました。

 こんな場面で家族信託を利用するとどうなるでしょうか。上に挙げた一文を事例に当てはめて読み替えてみましょう。

『財産の所有者が、その財産を信頼できる家族に託し、託された家族がその財産をある人のために管理運用する仕組み』

『Aさんが、アパートを信頼できる長男 C太郎さんに託し、C太郎さんがアパートをAさんのために管理運用する仕組み』

 この仕組みが実現すれば、Aさん家族の悩みが解決できるかもしれません。


 今回は家族信託の基本構造についての解説でした。ご理解いただけましたでしょうか?

 神宮外苑司法書士事務所のブログ、次回は『家族信託の登場人物』
 引き続き家族信託の基本事項を見ていきましょう。

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