『遺言』の読み方は『ユイゴン』? 『イゴン』?

法律文書が読みにくいのは文章が下手だから

 先日、今年のイグノーベル賞の発表があったようで、各所で報道がされていましたが、皆さんもニュースなどご覧になられたでしょうか。

 毎年ユニークな話題を提供してくれるイグノーベル賞ですが、今年の受賞対象の中に、当事務所の業務にも深く関連する研究がありました。「法律文書の理解を不必要に困難にしている原因の分析」という研究が、イグノーベル文学賞を受賞したそうです。

 受賞対象は、エリック・マルティネス氏、フランシス・モリカ氏、エドワード・ギブソン氏の3名による「専門的な概念のせいではなく、下手な文章が、法律用語の理解を難しくしている」という論文。報道によれば、おおよそ次のような内容の研究だそうです。

 文章読解力に優れた読者であっても、法律に関連する文章の読解においては、他の文章に比べて理解度が大きく下がる。これは、単に専門的な法律知識が欠如しているからではなく、法律文書に長く入り組んだ構造の文章が使われていることが理由である。
 研究者3人は「法律文書の文章には長文依存性、つまり下手な書き方が認められ、ワーキングメモリの制限を引き起こしている」と述べ、法律文書をわかりやすく編集することは社会全体にとって有益であると示唆した。

 法律文書が読みにくいのは、専門用語を使っているからではなく、文章が下手だから。

 おそらく大多数の人が気付いていた事実ではありますが、気付いてはいても明確に文章化されることのなかった事実を堂々と発表してしまったことに、イグノーベル賞的な価値があるのだと思います。法律に携わる者としては、なんとも複雑な心境となる論文です。

 では法律文書の文章が本当に下手くそなのか、試しに実際の法律の条文を一つ読んでみましょう。

戸籍法
第10条第1項(戸籍の謄抄本・証明)
 戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第二十四条第二項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。

 生活の中で戸籍謄本を取得しなければならない機会があるでしょう。例えば、ご家族に相続が発生すれば、法定相続人を特定するための作業として戸籍の収集が必要となります。このような場合、役所の窓口で戸籍を取得する際には、前提として申請人にその戸籍を請求できる権限があるのかないのかが問題となります。権限のない人からの請求では、役所は戸籍謄本を発行してくれませんので、上の条文など各種法令に基づいて、その権限を証明することから始めなくてはなりません。この条文は日常生活にも関連している条文であると言うことができるでしょう。

 この条文、確かに私は下手な文章だと感じましたが、皆さんはいかがでしょうか。日常生活に関連する重要な条文であるにもかかわらず、非常に読みにくい文章だと思いませんか。特に『~場合におけるその者を除く。)を含む。)~』の部分なんて、ひどいものだと思います。

 法律文書は文章が下手。確かに納得できる言い分です。

法律の文章が『下手』な理由

 法律の条文や契約書などの法律文書には、上の例のような回りくどい表現や引用、長いかっこ書きなど、文章を読みにくくする構造が多用されています。

 法律の味方をするわけではありませんが、法律文書がこのような『下手な』文章となってしまうことには、もちろんそれなりの理由はあるのでしょう。

 法律文書が読みづらい文章となってしまう一番の理由は、誤解を与えてはいけないということ。法律文書は社会生活や権利関係を規律するためのものですので、明確に意味内容を把握できない曖昧な表現や、二重の意味を持ってしまうような表現などは使ってはいけません。誰がどう読んでも同じ意味となる文章でなければなりません。決して誤解を与えない文章に仕上げる工夫として、くどいくらいに誤解を排除する書き方を追求していった結果が、『下手な文章』となってしまった理由と言えるのではないでしょうか。

 とはいえ、誰が読んでも読める文章でなければそもそもの意味がないのですから、読みにくい文章のままでよいわけはありません。3名の研究者の言う通り、法律文書も可能な限り平易な文章に変換していくことが望ましいと言えるでしょう。

 また、法律文書を読みにくくしているもう一つの理由として、『専門家の特権意識』というものもあるような気がしています。

 例えば、この単語、なんと読みますか?

『遺言』

 『ユイゴン』ですよね。

 ところが法律の専門家は、これを『イゴン』と読みます。法律の勉強をすると、初歩的な段階で『遺言』を『イゴン』と読むように教わります。読み方の差によって意味の違いがあるわけではないのですが、法律上の正式な読み方は『イゴン』であるとされているのです。法学部の教室でも、資格試験の専門学校でも、法律を勉強する場では必ず『イゴン』と発音されています。

 確かに『イゴン』と読んだほうが、なんだか専門家っぽくてカッコいい感じがしないでもないです。

 しかし、専門家同士の話し合いのなかで『イゴン』と話されるのであればよいのですが、実際の法律相談などの場で、一般の方を相手にして『イゴン』と発音されている先生を見かけると、私などは、控えめに言ってちょっととっつきにくい感じを受けてしまいます。なんだか『わたしは法律の専門家だ』というのを暗に主張されているような気がして、私が相談者であったらそのような先生にはあまりお世話になりたくないな、などとも感じてしまうところです。

 『ユイゴン』ではなく『イゴン』と発音したほうが、相手に専門的な知識を持った人だというイメージを与えることができます。このような専門家の特権意識が、法律文書を難しくしている面もあるのではないでしょうか。難しい構造の文章をすらすら読めるのが専門家である、という専門家の意識が、法律文書を読みにくくしているもう一つの理由として考えられるでしょう。

平易な言葉使い、分かりやすい説明を心掛けます

 私は司法書士として、日々法律文書に接しています。司法書士となるために一定程度の訓練も受けてきましたので、一般の方に比べれば、法律の(下手な)文章もすらすら読むことができます。

 しかし、ご相談にいらっしゃるお客様は法律の専門家ではありませんので、法律的な言い回しを理解しなければならないいわれはありません。もしも法律に関して、内容が専門的すぎて理解できないと感じたとすれば、それは理解できない人の落ち度ではなく、法律文書を作る側、内容を説明する側に問題があります。せっかくご依頼をいただくのですから、通常では理解しにくい法律の内容を、平易な言い回しで説明してもらうのでなければ、司法書士に業務を依頼する意味もなくなってしまいます。

 当事務所では、法律上の難解な内容を可能な限り的確にご理解いただけるよう、お客様に対して平易な言葉使い、分かりやすい説明を心掛けています。少しでもわかりづらい部分がありましたら、なんなりとご指摘ください。ご理解いただけるまで平易な表現に直してお伝えいたします。財産管理の予防法務や相続手続きは、とかく難しい内容となりがちです。分かりやすい説明を心掛け、内容を的確にご理解をいただいたうえでのお手続きサポートさせていただきますので、遺言や家族信託など、各種法務手続きをご検討の際はぜひ一度当事務所にご相談ください。

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