遺産分割協議後に遺言書が見つかったらどうなるか

 相続が起きると、被相続人の遺産を承継するための相続手続きが必要となります。今回は、相続人の間で遺産分割協議が済んでしまったあとに被相続人の遺言書が見つかったらどうなるのか、遺産分割協議は有効なのか無効なのか、という疑問についてご説明いたします。

遺産承継の優先順位

 以前のブログ 法定相続分での分割は絶対なのか の中でもお話いたしましたが、相続人のうち誰がどれだけの遺産を承継するかは次の優先順位によって決まります。

  • 被相続人が遺言書を残していれば、原則、そこに書かれたとおりに
  • 遺言書がなければ、相続人間の話し合い(遺産分割協議)により
  • 遺産分割協議がまとまらないなどの事情があれば、家庭裁判所の関与する調停や審判などにより

 被相続人が遺言書を残していれば、そこに書かれた被相続人の意思が何よりも優先されます(上記優先順位の①)原則として、被相続人が希望したとおりに遺産が承継されることとなります。

 『原則として』と断り書きをしたのは、遺留分の問題など、遺言の内容にも若干の制限がかかることがあるからです。

 ※ 遺留分についての詳しい説明は、遺留分とは をご覧ください。

 また、遺言書があったとしても、遺言書の存在と内容を把握したうえで、相続人全員がその内容とは違う遺産分割の方法に合意した場合には、遺言書の内容を覆し相続人全員が望むかたちで遺産を承継することも可能です。これは、故人の意思として遺言は最大限尊重されるべきではありますが、相続人全員が合意している場合にまで遺言の拘束力を優先することは合理的とは言えず、柔軟な遺産承継を困難とするためであるといわれています。

 以上のような例外はありますが、被相続人が遺言書を残していた場合は、その内容がそのまま実現されることとなるのが大原則です。

 では、被相続人が遺言書を残していなかった場合はどうなるでしょうか。

 被相続人が遺言書を残していなかった場合には、相続人全員での話し合い、つまり『遺産分割協議』によって遺産承継の方法を決定することとなります(上記優先順位の②)。相続人全員の同意により遺産の承継方法を決めるわけです。同意のもとでの分割ですので、その内容は法定相続分など何かの規定に縛られるものではありません。相続人全員が同意して決めた内容で、自由に遺産承継の方法を決定することとなります。

 相続人全員の意見が一致せず話し合いがまとまらない場合、あるいは何かの事情で遺産分割協議自体を行うことができない場合には、家庭裁判所の関与により遺産承継の方法を決定することとなります(上記優先順位の③)遺産分割協議自体を行うことができない場合の例としては、相続人の一部が未成年者であったり認知症などで判断能力が衰えている場合、あるいは相続人の一部が行方不明となっている場合などが挙げられます。話し合いがまとまらなければ調停や審判、参加できない相続人がいれば法律上の代理人選任など、家庭裁判所の関与する手続きが必要となります。

相続が起きたら遺言書を探す

 遺言が第一に優先されるわけですから、相続が発生した際にはまずは被相続人の遺言の有無を確認しなければなりません。

 被相続人が身近な人に対して遺言書の存在を明確に伝えていたり、あるいは遺言書自体を預けているようなこともあるでしょう。このように、遺言の存在が明らかではっきりしている場合は特に捜索の必要はありません。残された遺言書のとおりに手続きを進めることとなります。

 しかし、遺言は遺言者が単独で行う法律行為ですので、身近な人にも遺言をしたことを伝えていない場合も十分に考えられます。ですから、相続人としては、遺言があることが明らかでない場合は、その有無を調査しなければなりません。

 公正証書遺言は、全国の公証役場のデータベースにデータとして保存されています。遺言者の相続開始後であれば、相続人から公正証書遺言の検索を請求できます。

 また、自筆証書遺言については、近年始まったばかりの新しい制度ではありますが、法務局が遺言書を保管をしてくれる『自筆証書遺言書保管制度』があります。この保管制度には、遺言者の相続が発生すると、遺言者が登録していた特定の相手に対して遺言の保管を通知する仕組みが組み込まれています。自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局に保管された遺言書であれば、相続開始時に相続人等が遺言の存在を知ることができる仕組みが整っています。

 以上のように、公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言であれば、遺言書の存在は比較的容易に明らかになります。

 しかし実際には、遺言が存在しているにもかかわらず、相続人がその存在に気付かずに遺産承継の手続きを進めてしまう可能性もあるのです。

 例えば、保管制度を利用していない自筆証書遺言書が相続人の目につかない場所にしまわれていたり、保管制度を利用してはいても通知制度申出をしていない場合などが考えられます。あるいは、公正証書遺言があるにもかかわらず、被相続人は決して遺言をしていないと家族が思い込んでいれば、データベースの検索を依頼しないこともあり得ます。

 このように、遺言書の存在が見過ごされて手続きが進んでしまう可能性も考えられますので、被相続人が生前に遺言をしていないとはっきり明言していない限りは、相続が発生した際には、相続人は遺言書を捜索しなければなりません。

遺産分割協議後に遺言が見つかったらどうなるか

 では、存在する遺言書を発見できないまま遺産分割協議に進んでしまい、話し合いが済んで相続手続きが完了してしまったあとで遺言書が発見された場合にはどうなるでしょうか。

 遺産分割協議が済んで相続手続きが完了した後に遺言書が発見された場合であっても、遺言が遺産分割協議に優先するという大前提は変わりません。

 遺言に書かれた内容は被相続人の相続開始と同時に効力が発生しているため、相続開始時点にさかのぼって遺言書記載のとおりに遺産が承継されていたことになります。相続開始時点で承継されていた遺産について、あとから遺産分割協議を行っていたという理屈になりますので、この遺産分割協議は無効です。ですので、遺産分割協議・相続手続き後に遺言書が発見された場合は、既に行ってしまった遺産承継の手続きをやり直す必要があると言えます。

 とはいえ、上にも例外として述べたとおり、相続人全員の同意があれば遺言の内容とは違う遺産分割の方法を定めることができるわけですから、この例外と原則との関連も問題となります。この問題に関しては、相続人としては遺言が存在しないという前提のもとで同意をしていたわけです。前提が違うわけですから、既に済んだ遺産分割協議を単純に有効なものと考えることはできません。遺言書の内容を見ていたとしたら、相続人全員が同じ同意をしていたとは言い切れないからです。このような意味でも、やはりすでに行った遺産承継はやり直しとなるでしょう。

 もちろん、遺産分割協議後に遺言が発見された場合に、改めて相続人全員が遺言書の存在・内容を前提として、先に同意したのと同じ内容で同意しなおしたとすれば、すでに済んでいる遺産承継は有効なままとなり得ます。それでも、遺言に遺言執行者や相続人の排除などの記載があった場合には、関係すべき人物が協議に参加できていなかったことや、協議に参加すべきでない人が参加してしまっていたことになる可能性も出てきます。関係者に食い違いがある場合には、完了した遺産承継を有効とすることは不可能でしょう。完了してしまった遺産分割協議や相続手続きが有効かどうか、法律に基づいた慎重な判断が求められます。

あとから遺言書が見つかったら専門家に相談を

 遺産分割協議後に遺言書が発見される事例は多くはないとは思いますが、絶対にないとは言い切れないケースです。この場合、遺産分割協議の有効性の判断には、法律上複雑な問題がからんできます。また、遺産分割のやり直しには手続き上の困難も伴います。

 このような事例があった場合には、判断や手続きには正しい法律の知識が求められますので、早急に司法書士など法律の専門家へのご相談をお勧めいたします。

 あとから大きな問題とならないように、ご家族に相続が発生した場合には必ず遺言書を捜索しましょう。公証役場や法務局への検索も司法書士にご相談いただけば、サポートを受けることができます。

遺言書作成は専門家にご依頼を

 せっかく作成した遺言書も、相続人に発見されなければ何の意味もありません。

 相続人が遺言の存在を見過ごして遺産分割協議をしてしまったとすれば、遺言が無かった場合よりも複雑な問題が発生します。

 遺言の作成は遺言者ご自身がおひとりで行うことができる法律行為ではありますが、適切な知識に基づく方法で行わなければ、かえって大きな問題を残してしまいかねません。法律上有効な内容であることはもちろん、その作成方法など周辺知識においても専門家のサポートはかかせません。遺言書作成をお考えの際は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

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