法定相続分での分割は絶対なのか

遺産承継は法定相続分によって決まるのか

 相続の際、相続人のうち誰がどれだけの遺産を承継するかは、以下の優先順位によって決まります。

  • 被相続人が遺言書を残していれば、原則、そこに書かれたとおりに
  • 遺言書がなければ、相続人間の話し合い(遺産分割協議)により
  • 遺産分割協議がまとまらないなどの事情があれば、家庭裁判所の関与する調停や審判などにより

 先日、遺言に関するご相談の中で上記の遺産承継の優先順位についてご説明したところ、お客様(Tさん)からこのようなご質問をいただきました。

 「誰にどれだけの遺産が承継されるかは、遺言の有無の前に、まずは『法定相続分』によって決まりますよね? 遺言書がなければ、各相続人に法定相続分どおりに遺産が承継されるのでしょう?」

 Tさんと同じように考えておられる方が多いのですが、遺産の承継は法定相続分が前提となるというこの考え方、実は間違っているのです。

 Tさんのご指摘の通り、民法には『法定相続分』の規定があります。『法定相続分』とは、相続人が複数いる場合に、各相続人が取得する相続分として民法に定められた相続の割合です。民法の規定上は、遺言の有無や遺産分割協議に先立って、まず第一の前提として定められているのが法定相続分です。

 確かに条文の規定はその通りなのですが、実際の相続手続きの流れに即していえば、法定相続分を前提として手続きが進むわけではありません。むしろ、法定相続分 “そのもの” によって遺産が承継されるケースは、特殊な事情がある場合を除いてほとんど存在しません。

 では、実際の相続手続きにおいて『法定相続分』はどのような意味を持つ規定なのでしょうか?

法定相続分の概要

 『法定相続分』の割合については、被相続人と相続人との関係性や相続人の人数によって、民法で以下のルールが定められています。

配偶者と子が相続人となる場合は、配偶者1/2 子1/2
配偶者と親が相続人となる場合は、配偶者2/3 親1/3
配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合は、配偶者3/4 兄弟姉妹1/4
(ただし、子・親・兄弟姉妹が複数いる場合は、人数により均等)

 相続の順位や代襲相続など、細かい話をすると長くなりますので詳細の説明は別の機会とさせていただきますが、おおよその概要は以上のとおりです。相続に関する重要なルールですので、ご存知の方も多いものと思います。

 例えば、被相続人に配偶者とお子様2名がいる場合は、配偶者の法定相続分は1/2、子2名の法定相続分はそれぞれ1/4ずつとなります。配偶者と兄弟姉妹3名がいれば、配偶者が3/4、兄弟姉妹がそれぞれ1/12ずつです。

法定相続分は絶対か?

 冒頭のご質問をいただいたTさんご家族を例に考えて見ましょう。

 Tさんは奥様に先立たれており、お子様が3名(長男:一郎さん、次男:二郎さん、三男:三郎さん)おります。Tさんに相続が発生したと仮定しましょう。Tさんが銀行に預けていた預金の解約手続きはどのように進められるでしょうか。

 もしもTさんが生前に遺言書を作成していれば、原則として遺言書に書かれたとおりに遺産が承継されます。民法第902条で、被相続人は遺言で、法定相続分の規定にかかわらず、相続分の指定ができるとされているからです。金融機関にTさんの遺言書を持っていけば、そこに書かれた相続人が預金を受け取ることができます。

 しかし、Tさんはまだ遺言書を作成していませんでしたので、次の手段を考える必要があります。

 法定相続分は、一郎さん・二郎さん・三郎さんが各1/3ずつです。ですが、3名が1/3ずつ法定相続分どおりに遺産を分割することが必ずしも公平であるとは言えません。

 例えば、一郎さんはマイホーム資金を貰っていたとか、二郎さんはTさんの老後の面倒を見ていたとか、ご家族にはそれぞれの事情があるからです。

 二郎さんは、ほかの2人よりも多く財産を貰うべきだと感じるかもしれません。三郎さんは、一郎さんよりも多く財産を貰うべきだと感じるかもしれません。逆に、二郎さんと三郎さんが、3等分でよいと思ったとしても、一郎さんが弟の2人に多く財産を分けなければ気が済まないと感じるかもしれません。

 これは、マイホーム資金や老後の面倒などの具体的な事情がない場合であっても同じです。私は親から一番可愛いがられていたのだから、多く財産を貰うべきだと感じることだって、中にはあるかもしれません。

 このように相続人同士の意見が一致しない状況のままでは、金融機関は預金の引き出しに応じてくれません。意見が一致しないうちに誰かが勝手に遺産を承継してしまったら、後で大きな問題となりますので、金融機関の対応として預金の引き出しに応じないのは当然のことです。Tさんの預金の引き出しには、相続人全員の印鑑証明書など、全員が分割方法に納得している証拠の提出が求められます。

 つまり、遺産を分割するためには、相続人全員が話し合い、意見を一致させる必要があります。この話し合いのことを『遺産分割協議』と言います。預金の引き出しには、遺産分割協議の結果を記した遺産分割協議書が必要となります。

 もちろん、一郎さんら兄弟3人が、話し合いによって預金を1/3ずつ承継する場合もあり得ます。ただしそれは、“たまたま法定相続分と同じ” 内容で分けるとの話し合いがあったということを意味しています。法定相続分によって自動的に遺産が分割されたわけではありません。

法定相続分は判断の基準

 ここまで見てきたように、遺産承継の割合を決定する優先順位2つ目までは以下のとおりでした。

  • 被相続人が遺言書を残していれば、原則、そこに書かれたとおりに
  • 遺言書がなければ、相続人間の話し合い(遺産分割協議)により

 では、相続人の意見が割れて遺産分割協議がまとまらなかったらどうなるのでしょうか? 相続人の1人が行方不明であったり、あるいは病気や障がいで意思能力がなかった場合はどうでしょうか?

 遺産分割協議がまとまらないままでは、預金の払い戻しを受けることができませんので、協議に代わる別の方法で分割方法を確定しなくてはなりません。

 具体的には、遺産分割調停や財産管理人・後見人などの代理人選任といった家庭裁判所の関与する手続きによって、遺産の分割方法を確定することになります。色々な手続きがありますので、個々の事例やその方法論については、また別の機会にお話しさせていただきますが、相続人同士での話し合いによる解決に代えて、家庭裁判所が関与する各種の手続きを利用することになります。

 家庭裁判所は、各種手続き中で最終的な分割方法を指定しなければなりませんので、どの家庭に対しても一般的に公平であろうと認められる、ある一定の判断基準が必要とされるはずです。そこで家庭裁判所の判断において、その判断基準とされる割合が法定相続分です。

 法定相続分は、法律上一般に公平であると認められた相続割合として、家庭裁判所の関与する各種手続きの中での判断基準として用いられています。また、家庭裁判所の判断基準であるだけでなく、法定相続分は、遺言者が自身の遺言の内容を決定する場面や、相続人同士での遺産分割協議の話し合いの場面においても、社会一般的に公平な相続割合の基準として、その判断材料とされている割合なのです。

  • 被相続人が遺言書を残していれば、原則、そこに書かれたとおりに
  • 遺言書がなければ、相続人間の話し合い(遺産分割協議)により
  • 遺産分割協議がまとまらないなどの事情があれば、家庭裁判所の関与する調停や審判などにより

 遺産の承継割合は上記の優先順位で決定されます。法定相続分とは、あくまで①②③それぞれの場面で利用される『判断基準』であって、遺産分割の前提となる割合ではないのです。


 遺産の承継割合は、法定相続分によって自動的に決まるものではありません。遺言書が無ければ相続人同士の話し合いが必要ですし、意見がまとまらなければ家庭裁判所の関与が必要となります。

 遺産分割協議の場では、どんなに仲の良い家族であったとしても、言い争いになってしまう事例が多く見られます。相続を発端とするご家族の揉め事を表現した『争続』という言葉も存在しています。『相続』が『争続』に発展し、ご家族に亀裂が生じてしまう可能性は決して他人事ではありません。当事務所にも、相続トラブル発生後のご相談が度々寄せられます。将来、大切なご家族に争いごとを残さないためにも、今のうちに遺言書の作成をお勧めいたします。

 神宮外苑司法書士事務所では、お客様の立場に立って最善の解決策をご提案いたします。初回相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。

神宮外苑司法書士事務所は、

お客様に寄り添う

身近な法律家です。

認知症対策の最前線

家族信託は経験豊富な当事務所にご相談を。

相続を争続にしない

遺言は残される家族への最良の贈り物です。

想いに沿った老後に

もしもの時の財産管理は、家族に任せたい。