財産を“託す”ということ #03 よくわかる家族信託

 神宮外苑司法書士事務所のブログでは、できる限り平易な言葉遣い・誰にでも分かりやすい説明をモットーに、皆様に有用な法務情報を随時お届けしております。

 近年、メディアや金融機関のパンフレットなどでも目にすることの増えてきた『民事信託』『家族信託』という言葉。ご家族での利用を希望・検討されている方も多いのではないでしょうか。

 しかし、家族信託の仕組みは専門用語で説明される場合が多く、なかなか理解の難しいものです。このブログで家族信託の基本をご理解いただき、ご家族での活用を検討する一助としていただければ幸いです。

財産を“託す”ということ

 これまでの2回のコラム、家族信託ってなに? #01 よくわかる家族信託家族信託の登場人物 #02 よくわかる家族信託では、度々『財産を託す』という表現を使ってきました。

  • その財産を信頼できる家族に託し…云々
  • 財産を託す人が委託者
  • 財産を託される人が受託者

 などのような使い方でした。

 今回は家族信託の出発点でもある、この『財産を託す』という行為について、じっくりと考えてみたいと思います。

所有権の中身

 第1回家族信託ってなに? #01 よくわかる家族信託でもお話ししましたが、日本の法体系では私有財産制が認められています。財産を持つ人『所有者』は、その財産を自分のものとして所有する権利、いわゆる『所有権』を持っています。

 民法第206条には『所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。』と記されています。この条文のタイトルは『所有権の内容』ですが、条文をよく読むと、所有権の内容自体を説明しているというよりも、所有者が持っている権利を包括的に説明している文章であるような気もします。

 では、所有権の内容自体をもう少し掘り下げて具体的に説明してみると、どのように考えられるでしょうか。

 前回までのAさん家族に、ここでも登場していただきましょう。

 Aさんは賃貸アパート『A荘』の経営者です。A荘の土地・建物はAさんの所有物です。所有者であるAさんは、A荘に対して次ような権利を行使できるはずです。

  • 部屋を人に貸す。
  • 入居者からの賃料を受け取る。
  • 不動産管理会社に管理を任せる。
  • 空室に自分で住む。
  • 友達に無償で貸し出す。
  • 改装する。
  • 古くなったので壊して立て直す。
  • 人に売る。
  • 売ったお金を自分のものにする。
  • 人にタダであげる。
  • バンクシーの真似をして壁に絵を描く。

 他にも色々な権利があるかもしれませんが、A荘の所有者であるAさんが持っている主な権利は上の箇条書きのようなものではないでしょうか。AさんはA荘の所有者なので、上のどの行為をしても社会からとやかく言われたりしません。(もちろん、人にあげたり落書きを描いたりしたら奥様 B子さんには怒られるかもしれませんが、それはまた別の問題です。)上の箇条書きのように、Aさんは自己の所有物であるA荘に対して様々な行為をする権利を持っているわけです。これらの権利を総称したものが『所有権』と呼ばれる権利です。

 ここで、上に挙げた所有権の中身である各行為は、その性質から二つの種類に分類することができるのですが、お気付きでしょうか。

 この二つの分類、専門用語で言えば『管理処分権』『収益権』ということになりますが、これでは分かりにくいので、もう少し分かりやすい表現をしてみましょう。

管理処分権 = 財産を自分の好きなように扱うことができる権利
収 益 権 = 財産から得られる利益を収受できる権利

 さらに、上の箇条書きを、この二つの分類に分けてみましょう。

『管理処分権』 = 財産を自分の好きなように扱うことができる権利
部屋を人に貸す。
不動産管理会社に管理を任せる。
友達に無償で貸し出す。
改装する。
古くなったので壊して立て直す。
人に売る。
人にタダであげる。
バンクシーの真似をして壁に絵を描く。
『収益権』 = 財産から得られる利益を収受できる権利
入居者からの賃料を受け取る。
空室に自分で住む。
売ったお金を自分のものにする。

 所有権の内容には、『管理処分権』と『収益権』という二つの側面があることがお分かりいただけたかと思います。

二つの側面にニックネームを付ける

 所有権の中身を『管理処分権』と『収益権』の二つに分類して捉えることが、家族信託の構造を理解するために欠かせない前提であると私は考えています。

 所有権の持つこの二つの性質を理解すれば、家族信託の基本構造をすっきりと理解できるはずです。

 そこで、私はいつもお客様にこの二つの分類を説明するに時に、できるだけ分かりやすい直観的な表現での呼び名、ニックネームを付けて説明するようにしています。

『管理処分権』は、財産について他人との間で賃貸契約や売買契約を結ぶ権利のことですから『ハンコの権利』と呼びます。
『収益権』は、その財産から得られる利益を自分のものにすることができる権利ですから『お金の権利』と呼びます。

 俗な呼び方かもしれませんが、感覚的にも理解しやすいのではないでしょうか。

 つまり、所有権とは『ハンコの権利』と『お金の権利』を合わせたものと考えることができます。所有者は、所有物に対して、ハンコの権利とお金の権利の2種類の権利を持っていると言えるわけです。

所有権の構造
所有権の構造

 では、家族信託において委託者が受託者に財産を託すとき、所有権の性質はどのような変化を起こすのでしょうか。

ハンコの権利とお金の権利の分割

 本来、所有権はハンコの権利とお金の権利が一体となったものでしたが、信託はこのふたつの権利を分割することから始まります。

 元々は所有者(=委託者)の下で一体であったハンコの権利とお金の権利を分割して、ハンコの権利を受託者に、お金の権利を受益者に与えることで、信託が開始する、すなわち財産が託されるわけです。

管理処分権と収益権の分割
管理処分権と収益権の分割

 信託が開始すれば、受託者が財産の所有名義人となります。つまり、不動産であれば受託者が登記記録上の権利者として記載されることになりますし、現預金であれば表面上受託者名義の銀行口座に預けられるということです。

 信託開始前にはAさん名義であった不動産の登記は、信託により長男 C太郎さん名義に書き換えることになるのでした。

 C太郎さんはアパートそのものだけでなく、賃料の受領や、管理費用・固定資産税などの支払いを行いますので、信託専用の銀行口座を作ります。信託口口座(シンタク グチ コウザ)と呼ばれる専用口座ですが、「A 信託受託者 C太郎」などという風に、AさんとC太郎さんの双方の名前の入った口座名義となり、この口座からお金を引き出せるのはC太郎さんのみとなります。

 アパートを借りようと思う入居者は、Aさんではなく、C太郎さんと賃貸契約を結びます。賃料の支払いも、Aさんではなく、C太郎さん名義の信託口口座に振り込みます。アパートを人に売ろうと思ったときも、売主として売買契約書に判を押すのはAさんではなくC太郎さんです。『ハンコの権利』が受託者であるC太郎さんに移転した結果と言えますね。

 一方で、お金の権利は受託者ではなく受益者が持っていますから、収益を受けるのは受益者であるAさんです(委託者としてのAさんではありません)。C太郎さんが管理する信託口口座に入っている賃料収入は、Aさんのためだけに利用することができます。アパートを売って得られた売買代金は、C太郎さんの管理する信託口口座に入金はされますが、Aさんのためだけに利用することができます。こちらは、『お金の権利』が受益者であるAさんに移転した結果です。

 元々、委託者の下で一体であったハンコの権利とお金の権利が、信託契約を締結したことで、ハンコの権利が受託者に、お金の権利が受益者に、それぞれ移転したことになります。

 家族信託における『財産を託す』という行為を、分かりやすく説明してみましたが、いかがでしたでしょうか。

信託契約で財産を託す仕組み
信託契約で財産を託す仕組み

まとめ

 所有権とはハンコの権利とお金の権利の総称でした。信託とは、委託者がもともと持っていたハンコの権利とお金の権利を分割して、ハンコの権利を受託者に、お金の権利を受益者に付与するという方法で、財産を託す行為であると説明することができます。

 ここまで3回の解説で、家族信託の基本構造をご理解いただけたものと思います。

 家族信託とは、

『委託者が、受託者にハンコの権利を渡し、受益者がお金の権利を受け取る仕組み』

 というお話でした。

 神宮外苑司法書士事務所では、実際のご相談の場面でも、できる限り平易な言葉遣い・分かりやすい説明を心掛けております。初回相談は無料です。家族信託の活用をご検討であれば、是非一度ご相談ください。

 次回は『信託の種類』について説明します。

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