家族信託の登場人物 #02 よくわかる家族信託
みなさんこんにちは。神宮外苑司法書士事務所のブログをご覧いただき誠にありがとうございます。今回も前回に引き続き、家族信託・民事信託の基本事項について解説いたします。
前回は、家族信託ってなに? #01 よくわかる家族信託で、家族信託の基本構造をご説明いたしました。
家族信託の基本構造は、
『財産の所有者が、その財産を信頼できる家族に託し、託された家族がその財産をある人のために管理運用する仕組み』
という文章で表現できる、というお話でした。
今回は家族信託の登場人物について考えてみたいと思います。前回、事例として挙げたAさん家族のことも思い出しながら、考えてみましょう。
家族信託の登場人物
前回の家族信託ってなに? #01 よくわかる家族信託では、家族信託の基本構造をご説明しました。基本構造の文章には3人の人物が登場していました。
- 財産の所有者
- 財産を託される家族
- 財産の利用目的となる『ある人』
この3人のことを、法律上の専門用語では次のように呼んでいます。
- 委託者 = 財産の所有者
- 受託者 = 財産を託される家族
- 受益者 = 財産の利用目的となる『ある人』
前回のお話しで、賃貸アパート『A荘』を経営しているAさんは高齢のため、長男 C太郎さんにアパート経営を託して、Aさん自身のために管理してもらうことを検討していました。上の登場人物の呼び方をAさん家族に当てはめてみましょう。
- 委託者 = Aさん
- 受託者 = C太郎さん
- 受益者 = Aさん
委託者と受益者は、同一人物のAさんです。
3つの登場人物をひとつずつ、その性質を考えてみましょう。
委託者
委託者とは、元々の財産の所有者であって、財産を託す側の人物です。託す人なので “委託” 者です。Aさん家族の事例ではAさん自身です。
そもそも賃貸アパートはAさんの所有物です。このアパートの収益を当然に受け取ることができますので、賃料収入はAさんのものでした。このアパートは法律で認められたAさんの私有財産ですから、アパートを貸すのも、売るのも、壊すのも、所有者であるAさんの自由です。
Aさんの自由ですから、C太郎さんに託すことだって自由にできるわけです。Aさんの希望する内容・方法で、アパートを信頼するC太郎さんに託すことになります。
受託者
財産を託される側の人が “受託” 者です。受託という語のニュアンスからも分かる通り、財産を託されて、ある一定の仕事をする立場の人とも言えます。Aさん家族で言えば、C太郎さんが受託者です。
託される、つまり仕事を任されるということなので、C太郎さん本人が知らない間に託されても困ります。Aさんから「財産管理をお願いするよ」と頼まれて、C太郎さんがその仕事を請け負うことを承諾しなくては事が進みません。
家族信託は委託者と受託者との間の約束、法律上の用語で言えば『信託契約』によって実行します。C太郎さんは、Aさんの希望を実現するために、Aさんのアパートを託されることを約束するわけです。
ちなみに、細かい話をすれば契約以外の方法で行う「遺言信託」などもありますが、こちらはまた別の機会にご説明させていただきます。
託された財産はC太郎さんの名義となります。A荘の例で言えば、不動産登記の名義人としてこれまではAさんの名前が記録されていたところを、C太郎さんの名前に書き換えることになります。C太郎さんが信託契約によって名義人になったことを明示しますので、第三者から見てもC太郎さんが信託の受託者として財産を託されている立場であることが分かるようになります。
財産を託されたC太郎さんは、Aさんの意向に沿って、信託の目的を実現するために仕事をしていくことになります。この受託者が行う信託の仕事を『信託事務』と呼んだりします。
後継受託者 |
当初の受託者に事故や病気があり信託の仕事を続けられなくなる可能性もあります。また、当初予想しなかった事情により、途中で受託者の職を辞さなくてはならないこともあるかもしれません。 このように、当初の受託者が、受託者の仕事ができなくなってしまった時のための代わりの人物が後継受託者です。大抵の事例では当初から後継の受託者を定めています。 Aさん家族であれば、今は実家から離れて暮らしている次男 D次郎さんに、万一の際の受託者をお願いするかもしれません。後継受託者は、実際に当初の受託者が仕事ができない状況になったときにはじめて受託者となります。 C太郎さんが不慮の事故で亡くなってしまったり、何かの事情で信託の仕事を続けられなくなれば、D次郎さんがその仕事を引き継いで、Aさんのために財産管理を行うことになります。 「2次受託者」と呼ぶこともあります。 |
受益者
家族信託は、委託者が自身の希望に基づいて財産を託し、受託者がその希望を実現するために仕事をすることを約束し合う契約です。委託者の希望の内容は事細かに決めることができますが、その中でも最も重要な要素として、まずは財産を誰のために利用するのかを決めなくてはなりません。
この『誰のため』という時の『誰』が受益者です。信託において利益を受ける人ですので “受益” 者です。Aさん家族の事例ではAさんが受益者でした。
Aさんは委託者でもありましたが、同時に受益者でもあります。委託者と受益者は同じ人物でも別の人物でもどちらであっても構いませんが、家族信託の実務においては委託者自身を受益者(委託者=受益者)とすることがほとんどです。これは税務上の理由によるものですが、この点については今後の回で詳しく説明いたします。
受益者Aさんと委託者Aさんは同一人物ではありますが、ふたつの異なる立場を持っていると考えてください。Aさんの、財産を託す人の側面が委託者で、利益を受ける側面が受益者ということになります。信託が実行されると『受益者Aさん』にはアパートの収益を受け取る権利が与えられます。同時に『委託者Aさん』は収益を受ける権利を失います。
また、当然ですが、受託者であるC太郎さんにはアパートの収益を受け取る権利はありません。財産を託されたことでアパートの名義はC太郎さんのものになりますが、C太郎さんは受益者Aさんのために仕事をする目的で財産を託されているわけですので、名義人であるからと言って利益を受けることはできません。
2次受益者 |
この信託の受益者はAさんでしたが、Aさんの相続発生後には、Aさんの奥様 B子さんの生活のために引き続き長男に財産管理をお願いしたいところです。このような希望を実現するため、受益者の死亡などの一定の事由が発生した後に、当初の受益者の利益を引き継ぐ人物を定めておくこともできます。 将来の受益者を定められるということは、家族信託を遺言の代用として機能させることができるということです。B子さんを2次受益者としておけば、Aさんが「アパートをB子さんに相続させる」という内容の遺言を書いたのと同様の効果が得られます。しかも、B子さんが相続した後にもC太郎さんによる財産管理が継続するので安心ですね。 また、2次受益者、3次受益者…、と将来の受益者を連続して定めることも可能です。この機能を利用すれば、遺言では一回限りしか指定できなかった財産の承継先を、代々に渡って指定することも可能となります。遺言では実現不可能であったこの仕組みが、家族信託の大きなメリットのひとつとされています。 |
委託者・受託者・受益者のまとめ
ここまで、家族信託の主要登場人物3人、委託者・受託者・受益者についての説明でした。文字で見ると似通った言葉なので、区別が難しいかもしれませんが、つぎのように意味内容から区別すると覚えやすいですね。
- 委託とは、託すこと
- 受託とは、託されること
- 受益とは、利益を受けること
残余財産帰属権利者
委託者、受託者、受益者に加えて、もう一つ、家族信託で重要な役割となる登場人物がいます。それが『残余財産帰属権利者』です。
AさんとC太郎さんの間の信託契約もいずれは終了します。どのような事由によって信託が終了するかも契約の中で定めますが、通常はAさんの死亡や、Aさん死亡後にB子さん(2次受益者)が死亡したときなど、信託の当初の目的(親のための財産管理)が達成されたときに信託を終了するものとしています。
信託が終了しても、アパートや賃料収入の預貯金などの財産が残っているはずです。そこで、信託が終了すれば、残った財産を誰かに戻す必要が出てきます。信託終了時に残った財産(残余財産)を受け取る人物(帰属先)となるのが残余財産帰属権利者です。
Aさん家族であれば、例えば、これまで財産管理の仕事をしてくれたC太郎さんを残余財産帰属権利者に指定しておくことが考えられます。将来AさんとB子さんが亡くなり信託が終了すれば、賃貸アパートとその収益はC太郎さんの固有の財産となります。
この他にも、受益者代理人、信託監督人などの登場人物がいますが、これらは必要に応じて決める事項ですので必ずしも指定するものではありません。
- 委託者 = 財産の所有者
- 受託者 = 財産を託される家族 (後継も含む)
- 受益者 = 財産の利用目的となる『ある人』 (2次なども含む)
- 残余財産帰属権利者 = 信託終了後の財産を受け取る人
以上の4つの用語は、信託の話をする際には絶対に必要となる基本の用語です。家族信託の利用をご検討の方は、是非とも覚えておきましょう。
神宮外苑司法書士事務所のブログ「よくわかる家族信託」、今回は家族信託の登場人物に関する解説でした。
次回はこれまで何度も出てきた言葉、『託す』ということについて考えてみたいと思います。『財産を “託す” ということ』
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