遺留分~法律は正義か

 以前の当事務所のコラム 相続は普遍的なルールではない で、『相続』は法律があるからこそ認められるというお話をさせていただきました。相続の仕組みが法律に定められているからこそ、相続財産は相続人に承継される。ということは、逆に言えば、法律に書いてある通りにしか相続は認められないということでもあります。

 先日、改めてこのことを深く考えさせられる具体的な事例がありましたので、ご紹介させていただきます(ご相談の内容は、個人情報を特定できないよう、適宜加工しております)。

 花子さん(68) が、母の遺産承継手続きについてご相談にいらっしゃいました。花子さんから伺った概要は以下のとおりです。

【花子さんの語った内容】
 母の和子さんが亡くなりました。相続人は、長女の花子さんと長男の太郎さんの2人です。
 生前、和子さんは亡き夫から引き継いだ先祖代々の家で、花子さん家族と同居していました。和子さんの身の回りのお世話はすべて花子さんが見ていました。
 一方、太郎さんは若い頃から遠方で暮らしており、年に一度お正月に家族をつれて実家へ帰ってくるだけで、母の和子さんに対して一切の援助も、身の回りのお世話もしていませんでした。
 和子さんには亡き夫から引き継いだ一定程度の財産がありましたが、これまで面倒を見てくれた花子さんにこの財産を残したいと思い、生前、遺言書を作成していました。太郎さんには一切の財産を相続させず、全財産を花子さんに相続させるという内容でした。
 和子さんの相続があったので、遺言書に基づいて、花子さんが全財産を承継する相続手続きを行うことになります。

 花子さんのおっしゃる通り、公正証書で作成された和子さんの遺言書には、全財産を花子さんに相続させる旨が書かれていました。公正証書で作成された遺言ですので、和子さんの意思に疑いを挟む余地はありません。自宅不動産と少なくない額の預貯金すべてが花子さんに相続されることになっています。花子さんのご希望は、遺産承継の事務手続きを当事務所で代行して欲しいとのことでした。

 ここまでのお話しを伺ったうえで、当事務所にご依頼いただいた場合に代行できる手続きの内容と、併せて、太郎さんから遺留分の請求があった場合には遺産総額の1/4相当の金銭を支払わなければならなくなることをお伝えしました。

 前回のコラム 遺留分とは でもご説明しましたが、太郎さんが遺留分を請求してくれば、花子さんは拒否することはできず、必ず支払わなければなりません。任意に支払うつもりがなくても、最終的には裁判上の手段で強制的に支払わされることになります。もし太郎さんからの遺留分請求があった際には、敢えて争いごとに発展させて時間と労力を使うよりも、素直に遺留分相当額を支払って解決した方がよいというアドバイスも差し上げました。

 遺留分についての説明を聞いた花子さんは、次のようにおっしゃいました。

 「太郎は母の面倒を一切見ませんでした。母の身の回りの世話はすべて私がやってきました。私がこの家の全財産を相続するのは当然のことです」

 花子さんのお気持ちを理解できないわけではないですが、ここで受け流して手続きを進めてしまっては、後日実際に遺留分請求がされた場合に話が違うとも言われかねません。そこで、法律上、太郎さんには遺留分請求の権利が認められており、これは曲げることのできない事実であるということを重ねてお伝えしました。

 「法律で決まっているからと言って、わたしはそんな不公平なことは認めません。そんな不公平な法律はおかしいに決まっています。日本の法律は一体どうなっているんですか? 正義はどこにあるんですか?」

 花子さんは興奮していたせいで少々過激な発言をされてしまったのだとは思いますが、それでもこの発言は『法律と正義とは必ずしも一致するものではない』という真実を言い当てているものだと感じました。

 もちろん、法律は正義を実現するための手段であるというのが理想であって、その理想に合うように社会制度は成熟していくべきものだと考えます。しかし一方で、万人にとって正義である制度を完成させることはできないのも事実です。正義は理想ではあっても、現実問題として法律がすべての正義を実現できるわけではありません。

 私は、亡くなった和子さんとは面識がありませんでしたし、太郎さんのお話も伺ったことがありません。ですので、ご家族それぞれの立場で、それぞれの言い分が実際どのようなものであるかは知る由がありません。花子さんの言い分を疑うわけではありませんが、立場が違えば物の見え方も変わってくるはずです。真相は藪の中です。このような各人の事情を調整する現実的な手段として私たちの社会を規制しているものが法律なのです。

 相続は法律に規定されている通りにしか認められません。ある人がそれを正義であると感じるか、不公平であると感じるかにはかかわらず、法律に書いてある通りにしか相続は認められないのです。

 ちなみに、最終的に花子さんは太郎さんの持つ遺留分の権利について理解されて、太郎さんに事情を説明したうえで手続きを進めることになりました。太郎さんも事情に納得したとのことで、1/4には満たないある程度の少ない金額を遺留分として支払うことで折り合いがついたそうです。


 遺留分の問題だけでなく、遺言書の作成や遺産承継手続きなど、相続に関する各種手続きには正しい法律の知識が欠かせません。不要な相続トラブルを起こさないためにも、経験豊富な法律専門家のサポートを得て、正しい法律解釈のもと手続きを進めることをお勧めいたします。

 神宮外苑司法書士事務所は、予防法務の専門家として、相続に関する各種法務手続きにおいて、豊富な経験と正確な知識に基づいて、お客様の立場に親身に寄り添い最適な法務サービスを提供いたします。遺言書の作成をはじめ相続の法務に関するご相談がございましたら、ぜひ一度お問い合わせください。

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相続を争続にしない

遺言は残される家族への最良の贈り物です。

想いに沿った老後に

もしもの時の財産管理は、家族に任せたい。