遺留分とは
遺留分とは
相続に関するご相談の際、お客様から特に多くのご質問いただく事項として『遺留分』に関するものがあります。
遺留分は、相続人間の権利を調整するための重要な規定ですが、少々複雑な仕組みでもあり、相続に関するルールの中でも特に分かりづらい部分のひとつです。今回はこの遺留分の制度についてご説明いたします。
『遺留分』とは、一定の相続人に対して法律上確保された最低限度の相続割合のことです。
自分の財産の行方は遺言で自由に決めることができます。例えば、複数いる相続人のうち、たった一人に全財産を相続させるという遺言も有効です。私有財産制によって自分の財産をどのように処分してもよいと認められている以上、自分の財産を死後に誰に遺すかを決めることも、財産の所有者、つまり遺言者の自由であるということです。
しかし一方で、これまで被相続人に扶養されていた近親者などが、被相続人の遺言によって十分な相続財産を受け取ることができなかった場合には、その後の生活に困窮してしまう可能性も考えられます。そこで、遺言者の自由な財産処分権の保障と、相続人に対する経済的保護のバランスを取るための制度が必要となります。
また、生活に困窮することがなかったとしても、相続人には遺産を承継する期待感があったはずです。民主主義においては、他人の権利を害さない限り個人の権利は最大限保障されるべきという大前提がありますので、遺産承継を期待する『相続期待権』とでも言うべき権利も、他の相続人との関係性の中で、保障すべき権利であると考えられます。
以上2つの課題を解決するための方法論として定められた制度が遺留分です。遺留分の制度趣旨には、相続人の『経済的保護』と『相続期待権の保障』という2つの意味があるとされています。
配偶者や子供など一定の関係性の相続人には、本人が希望しさえすれば一定割合の財産を受け取ることができる権利が保障されています。この一定割合のことを『遺留分』と呼ぶのです。
遺留分割合の概要
遺留分の割合は、被相続人との関係、相続人の人数により次のように定められています。
相続人の構成 | 法定相続分 | 遺留分の割合 |
---|---|---|
配偶者のみ | 100% | 1/2 |
子のみ | 100% | 1/2 |
直系尊属のみ | 100% | 1/3 |
兄弟姉妹のみ | 100% | 遺留分なし |
配偶者と子 | 配偶者1/2、子1/2 | 配偶者1/4、子1/4 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者2/3、直系尊属1/3 | 配偶者1/3、直系尊属1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 | 配偶者1/2、兄弟姉妹遺留分なし |
同順位の相続人が複数いる場合は、上の割合を人数で案分します。
遺留分の請求方法
では実際に、遺留分を満たさない遺言があった場合、遺留分を侵害された相続人は具体的にどのような手段で遺留分を取り戻すのでしょうか。
【事例】
被相続人の父乃介さんが、長男の一郎さんに全財産を相続させ、次男の次郎さんには一切財産を相続させないという遺言を残して亡くなりました。
なお、父乃介さんの相続人は一郎さんと次郎さんの2人だけです。
子のみが相続人ですので子全員の遺留分が1/2です。子が2人ですので1/2で案分して次郎さんの遺留分は相続財産の1/4となります。
遺留分を満たさない遺言が書かれたとしても、父乃介さんの生前には次郎さんには何の権利も発生しません。父乃介さんが亡くなり、実際に遺留分侵害の事実が発生してはじめて、次郎さんには遺留分に関する権利が発生します。父乃介さんの遺言は、実際に相続が発生し、次郎さんが遺留分請求の権利を行使するまでは完全に有効です。ですので、父乃介さんの相続開始により、ひとまずは遺言の通り全財産が一郎さんに承継され、次郎さんは一切の財産を受け取りません。ここまでは父乃介さんの遺言通りにことが進むということです。
ここで次郎さんが考えるべきことは、遺留分の権利を行使するかどうかです。
次郎さんが生活に困っておらず、一郎さんがすべての遺産を相続することについて納得していて、遺留分を請求するつもりがないのであれば、次郎さんは特に何もする必要はありません。遺留分はあくまで相続分を侵害された相続人側の権利ですので、行使するかしないかは本人の自由です。次郎さんが遺留分請求の権利を行使しないのであれば、一郎さんが全財産を承継して話は終わりです。
では、次郎さんが遺留分の権利を行使しようと考えた場合はどうでしょうか。遺留分は次郎さんに法律上認められた当然の権利ですので、その権利を行使するのに事情も理由も必要ありません。主張さえすれば、次郎さんは遺留分相当の財産を取得することができます。
ここからは、遺留分請求の方法として、主張をする相手方と引渡しを求める対象物について具体的に見てみましょう。
遺留分請求の相手
次郎さんが遺留分請求の権利を行使する相手は、被相続人の父乃介さんではありません。全財産を一郎さんに相続させるという遺言をしたとしても、生前であれ、死後であれ、父乃介さんに対しては何の主張もできません。
遺留分請求の相手は、父乃介さんの相続開始により全財産を(ひとまず)相続した一郎さんです。次郎さんは一郎さんに対して、父乃介さんから相続した財産の中から、遺留分相当の財産を渡すよう主張することができるのです。
主張の仕方には特に決まりはありません。口頭で伝えても、書面で伝えても、主張は有効です。ただし通常は、確実な証拠を残すため内容証明郵便によることが一般的です。どのような方法で伝えるにしろ、次郎さんが一郎さんに対して遺留分を渡せと言うだけで、一郎さんは渡さなくてはならなくなります。
一郎さんが素直に財産を渡してくれればそれで話は解決ですが、当然のことながら一郎さんが遺留分の支払いを渋ることもあり得ます。そこで、一郎さんが任意に財産を引き渡さない場合は、次郎さんには裁判所における調停や訴訟の手続きが用意されています。最終的には裁判上の強制的な手段が控えていますので、次郎さんが請求する限り、一郎さんは遺留分相当の財産を渡さなくてはならない仕組みになっているのです。
遺留分請求の対象物~遺留分侵害額請求
現行の民法の規定では、次郎さんが一郎さんに対して引き渡すように請求できるのは、遺留分に相当する額の『金銭』です。
相続財産の中には現金以外のもの、例えば不動産などが含まれていることもありますが、このような場合でも現物の不動産の持分1/4を請求できるわけではありません。不動産などの現物はその価値を金額に換算したうえで、現金など他のすべての財産と合計した相続財産全体の価額の1/4相当の『現金』を請求することになります。遺留分を請求された一郎さんは、父乃介さんの遺産総額の1/4にあたる現金を、次郎さんに支払わなければならないわけです。
すべての相続財産を現金に換算して請求するこの規定は、2019年7月1日に施行された現行の民法から改正されたルールです。改正前は、現物は現物のまま、その持分を請求する仕組みでした。しかし、現物のまま請求する改正前のルールにおいては、遺留分請求をするような、言ってみれば仲の悪い親族が、財産を共有状態で保有してしまう結果となるため、以後の財産管理・処分に支障をきたす場合が多くありました。このような不都合を回避するため、現行規定では、遺留分相当額の現金でのみ請求できる仕組みとなっているのです。
お聞きになったこともあるかもしれませんが、この請求のことを以前は『遺留分減殺(げんさい)請求』と呼んでいました。民法の改正に併せて、請求方法の名称も遺留分減殺請求から『遺留分侵害額請求』と変更されています。遺留分に相当する金額の金銭を請求できる制度ですので、遺留分侵害額請求と呼ぶのです。
遺言の内容は、遺言者ご自身の希望通りに決めることができます。遺留分を満たしていない遺言も、遺留分侵害額請求があるまでは有効です。しかし、遺言の内容によっては、遺言者の相続発生後、家族に不要な争いの種を残してしまうことにもなりかねません。
神宮外苑司法書士事務所では、将来の円満な相続を見据えたうえで、遺言者様ご自身のご希望を最大限叶えるための遺言の内容をご提案いたします。遺言作成をご検討の際は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。
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