法定相続人 #01 基礎から知る相続のルール
現代では大多数のご家庭が少人数の家族構成となっていますので、大抵の方にとってはご家族の相続の場面に関わるのは一生に数回程度のことでしょう。それでも、いざご家族に相続が発生すれば、法律に基づいて財産に関する重要な決定や手続きを行わなければなりません。
相続に関する法律は多岐に渡るため、必要なルールのすべてを正確に把握するのは難しいことです。しかし、相続は法律に決められている通りにしか認められませんので、誤った知識に基づいて相続手続きを行えば思わぬ失敗をしてしまうかもしれません。財産に関する手続きであるため場合によっては大きな損をしてしまう可能性もあり得ます。
一生にたった数回であっても、身近なご家族がいる限り、相続の場面は避けられません。法律を知らなかったことで失敗や損をしてしまわないためにも、ご家族に相続があったときに必要となる最低限の法律知識を身に付けたいとお考えの皆様に向け、相続に関する基本的なルールをご説明いたします。
日本の相続のルールの基本は、民法の第5編に定められています。相続に関する法律という意味で、この民法第5編を『相続法』と呼んだりもします。民法の第882条から第1050条の部分を指す通称であって、相続法という名前の独立した法律があるわけではありません。
今回は相続法のうち、法定相続人についてご説明いたします。
法定相続人
まずは相続法の中でも特に基本となる事項を規定した民法の2つの条文を見てみましょう。
第882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。 ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
ある人が死亡すると、その人について相続が開始します。そして、その人(被相続人)の財産は原則としてすべて、相続人に承継されます。上の2つの条文は、相続によって相続人は被相続人の権利を包括的に承継するという相続法の基本原理を示しています。
相続人が財産の承継先となるわけですので、次にだれが相続人であるのかを特定する必要が出てきます。民法において、被相続人との法律上の身分関係によって、誰が相続人となるのかが明確に規定されています。これが『法定相続人』です。文字通り、法律に定められた相続人という意味です。
法定相続人は、民法第886条から第895条までに規定されています。この規定の中から、相続人の範囲を特定する基本的な決まりを見てみましょう。
子(直系卑属)
被相続人の子は相続人となります。
ただし、子が先に亡くなっていれば、子の子(つまり孫)が代わりに相続人となります。このように、下の世代が代わりに相続人となることを『代襲相続』と呼びます。下の世代への代襲は、子、孫、曾孫、玄孫…、と永遠に続いて認められます。なお、このように下の世代に直接つながる親族ことを『直系卑属』と言います。
直系卑属のことを『第一順位の相続人』と言います。
なお、法律上の直系卑属であればよいので、養子縁組をした養子や、子が生前に養子縁組した子の養子なども第一順位の相続人となります。法律上は、養子も完全な親子関係を有しています。また、他人と養子縁組をした子も、実親との関係性を完全に絶つ特別養子縁組でない限り、実子としての相続権を持ち続けます。
親(直系尊属)
子(または子の代襲相続人)がいないときは、親が相続人となります。
親が亡くなっていて、祖父母等が生きていれば、代わりに祖父母が相続人です。親や祖父母、曾祖父母など、上の世代に直接つながる親族のことを『直系尊属』と言います。直系卑属がいない場合は、直系尊属のうち一番近い世代の者が相続人となるということになります。
直系尊属のことを『第二順位の相続人』と言います。
なお、直系尊属についても、養子の場合と同様、養親も第二順位の相続人に含まれます。特別養子縁組でなければ実親との親子関係も途切れませんので、場合によっては、実父母・養父母の4人の親がいる場合もあり得ます。
兄弟姉妹(傍系の相続人)
子(代襲含む)も、親(祖父母等含む)もいないときは、兄弟姉妹が相続人となります。
兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、1世代に限って代襲相続が認められます。つまり、甥姪までが相続人となり、その子供には代襲されないということです。これは、兄弟姉妹の直系卑属の場合、自身の直系卑属と違って本人との関係性がその分薄くなりますので、あまり関係の深くない親族が相続人となることを避けるために設けられた決まりです。よく知らない間柄の人の財産を突然相続してしまうことがないようにするという意味で、『笑う相続人を生まないため』などと表現されることもあります。
兄弟姉妹(代襲甥姪含む)を『第三順位の相続人』と言います。
なお、親の再婚などにより片親のみを同じくする兄弟姉妹がいる場合、この兄弟姉妹も第三順位の相続人です。片親のみを同じくする兄弟姉妹のことを『半血兄弟姉妹』と呼びます。ちなみに両方の親を同じくする兄弟姉妹は『全血兄弟姉妹』です。
また、親の養子が兄弟姉妹となることにも注意が必要です。血のつながりがなくても、法律上は兄弟姉妹関係です。両親と養子縁組していれば全血兄弟姉妹、片方の親とだけ養子縁組していれば半血兄弟姉妹と同じ扱いです。
第一順位の相続人 | 子(代襲含む) |
第二順位の相続人 | 親(祖父母等含む) |
第三順位の相続人 | 兄弟姉妹(代襲含む) |
配偶者(配偶者がいる場合は必ず相続人になります)
以上の3つの順位の相続人とは別に、配偶者がいるときは、配偶者は必ず相続人となります。
第一から第三までの順位の相続人は、順位がありましたので、前の順位の者がいない場合にはじめて次の順位の者が相続人になるという仕組みでした。このような順位のある相続人とは違い、被相続人の配偶者は必ず相続人となります。
被相続人が亡くなった時点で、法律上の婚姻関係にあって生存している配偶者は、必ず相続人です。
被相続人よりも先に亡くなっていれば財産を承継することはできませんので、当然相続人にはなりません。また、過去に婚姻関係にあった相手であっても、相続開始時にすでに離婚しているなどで、法律上の婚姻関係にない場合も相続人にはなりません。
推定相続人
少し話が逸れますが、法定相続人と似た表現に『推定相続人』という言葉があります。
相続は被相続人の死亡によって開始します。つまり、当然ではありますが、本人が亡くなるまでは実際には相続は発生していないということです。『相続人』という言葉は、ある人の相続開始によって財産を承継する人のことを指していますので、実際の相続が起きるまでは、相続人となる資格のある人も、今はまだ正確に言えば相続人ではないということになります。
しかし将来相続が起きるときのことを考えて、遺言書を書いたり相続税対策をしたりと、まだ本当の相続人ではない『将来の相続人』のことを検討する場面もあるわけです。このような場面においては、将来の相続人を表現する言葉があると便利です。
このように、実際にはまだ相続が起きていないけれども、今相続が起きたとしたら相続人となるべき人のことを表す言葉として『推定相続人』という表現を使います。現時点での相続人候補者のことは推定相続人と呼ぶと覚えておきましょう。
まとめ
相続人の組み合わせとしては、次の7通りが考えられます。
- 配偶者のみ
- 子のみ(代襲含む)
- 親のみ(祖父母等含む)
- 兄弟姉妹のみ(代襲含む)
- 配偶者と子(代襲含む)
- 配偶者と親(祖父母等含む)
- 配偶者と兄弟姉妹(代襲含む)
相続が発生したら相続手続きを行うことになります。相続手続きでまず最初に考えなくてはならないのは、誰が相続人であるのかということです。また、将来の相続に備えて相続対策を取るためには、推定相続人が誰であるのかが非常に重要な検討の要素となります。
法定相続人の確定は、相続を考えるうえでの一番の基礎的事項と言えます。ご自身やご家族の法定相続人が誰にあたるのか、今一度確認してみましょう。
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