相続財産調査
広い意味での相続財産には、経済的価値のあるプラスの財産だけでなく、借金・負債などのマイナスの財産も含まれます。プラスの財産を『積極財産』あるいは単に『財産』と呼ぶ人もいます。マイナスの負債は『消極財産』または『負の財産』などと呼ばれたりします。財産には、プラスのものだけではなく、マイナスの負債も含まれることに注意が必要です。
相続財産調査においては、遺産承継の準備として、すべての相続財産についてその内容を調査します。
身近な親族が明確に把握している財産もあれば、詳細を調べなくては分からないものや、中には秘密の財産もあるかもしれません。いずれにせよ、すべての財産を調査してその内容を明確にする必要があります。調査した財産について、法令や手続き上、財産目録の作成が求められる場合もあります。法令や手続きで求められないケースであっても、可能であれば財産目録は作成した方がよいでしょう。
主な相続財産の種類とその調査方法は次のとおりです。
不動産の調査
法律上、不動産とは土地と建物のことを指します。自宅の土地建物、田畑、山林など、被相続人が所有していたすべての不動産を調査します。特に事業用や賃貸用の不動産など、営業活動に直結する不動産を所有していた場合は、副次的な財産価値もあるため重要な調査となります。
不動産には登記制度がありますので、通常は誰がその不動産の所有者であるかが登記されています。不動産を購入したとき、親から相続したとき、贈与を受けたときなど、被相続人が不動産を取得したときの登記簿などの記録が手元に残っていれば、調査の元資料とできるでしょう。ただし、不動産登記は義務ではないため、未登記の建物などがある場合もあり得ます。未登記の不動産がある場合は、売買契約書や納税通知書など、被相続人の所有を証明する資料が必要となります。
不動産の所有者には毎年固定資産税の納税通知書が届きます。納税通知書は市区町村ごとに発行され、同封されている課税明細書には、その市区町村にある課税不動産の一覧が記載されています。ただし、私道部分の土地などの非課税不動産は記載がされないため、課税明細書をもとに不動産調査をすると調査漏れをしてしまう恐れもあります。市区町村内の所有不動産を漏らさず調査するために、役所の税務課等が発行する名寄帳を取得しましょう。不動産を所有していた全市区町村での名寄帳が揃えば、未登記も含めた全所有不動産の情報と、その固定資産評価額が判明します。
預貯金の調査
被相続人名義の金融機関の預貯金口座調査が必要です。数件の金融機関に預貯金口座を持っていることが多いでしょう。通帳やキャッシュカードがあれば簡単に判明しますが、手元に資料が無い場合は金融機関の各支店窓口に調査を依頼しなければなりません。
口座があることが確認出来たら、金融機関単位で残高証明書などの証明資料を発行してもらいます。
有価証券の調査
被相続人が投資していた金融資産がある場合は、証券口座の調査が必要です。預貯金と同様に有無の調査からはじめます。証券会社から定期的に送られてくる明細書などが根拠資料となります。資料が無ければ証券会社の窓口での調査依頼も必要です。
預貯金口座と同様に残高証明書などの証明資料を発行してもらいます。
自社株式等の調査
被相続人が自身で会社を経営していた場合、あるいは親族・知人の会社の株主等であった場合には、会社の株式や持分、出資金等も相続財産となります。
株式会社であれば、株主名簿などによって保有している株数を明確にします。株式等を保有している場合は保有の証拠資料だけでなく、会社の決算書など、相続財産の財産価値を算定するための資料も必要となります。
借地権などの第三者に対する権利、ゴルフ会員権など、登録制度のある財産の調査
借地権など、第三者との契約により発生している権利も、財産的価値があり法律によって相続が認められているものであれば相続財産となります。契約書など、契約の事実を証明する資料が必要となります。
ゴルフ会員権などの権利で、相続ができる規定のあるものは相続財産となります。たとえ経済的価値がなかったとしても相続財産には変わりありませんし、場合によっては将来価値が発生する可能性があります。相続手続きには権利を有することを証明する証書が必要となります。会員証などの名称の書類があるでしょう。
自動車などの登録制度のある財産については各種登録証を準備します。
貴金属などの動産の調査
財産的価値のある現物です。高価なものから比較的安価なものまで様々です。正確なことを言えばボールペン1本でも財産ではありますが、社会通念上相続手続きの対象としなくてよい範囲のものは、除外してしまって問題ないでしょう。
ある程度の財産的の価値のあるものは、遺産分割や相続税の申告のため、鑑定などによる財産的価値の評価も必要となります。
デジタル遺産の調査
近年では、暗号資産をはじめとしたデジタル化された財産の種類も増えてきました。このようなデジタルの財産も相続財産として考慮しなければなりません。暗号資産のように直接的に財産的価値を表象しているものだけでなく、アフィリエイトや権利譲渡などによって財産的価値に換価できるアカウント等も、重要なデジタル遺産です。
デジタル遺産の保有を証明する資料は、財産の種類ごとに様々となります。基本的には、メールやアカウント情報などのデジタル情報が証拠資料となります。デジタル遺産は新しい分野の相続財産ですので、場合によっては専門的知識をもった業者等への調査依頼も必要となります。
消極財産(債務)について
借金や負債、未払金など、負の財産も相続の対象です。金銭消費貸借の契約書や借用書、あるいはこれまでの返済記録などによって、残債務を調査・特定しなくてはなりません。
また、直接的な金銭債務のみならず、契約上の義務であっても、法令の範囲内で相続の対象となりますので注意が必要です。
相続財産のうち積極財産よりも消極財産が多い場合、つまり債務超過である場合は、相続人は受け取る財産額よりも支払う財産額が多くなります。普通に相続を受け入れてしまうと相続人の持ち出しとなってしまいますので、債務超過が明らかな場合、または明らかではないにせよ債務超過の可能性が考えられるときは、相続放棄や限定承認を検討しなければなりません。
- 相続放棄とは、積極財産も消極財産も含め、すべての財産の相続を放棄する手続きです。
- 限定承認とは、積極財産の額を責任限度として消極財産を弁済し、積極財産が余ればそれを相続する手続きです。
【ご注意ください】
相続財産に消極財産が含まれる場合は、相続をするのか放棄するのか、あるいは限定的に相続を受け入れるのか、判断しなくてはなりません。相続放棄・限定承認は、相続の開始を知ったときから3か月以内にしなければなりません。期限がありますので、早急に対応しましょう。